インド映画「あなたの名前を呼べたなら-Sir-」身分違いの恋の切なさと保守的な女性の解放を描く

久しぶりすぎるインド映画レビュー!
いや、子ども生まれてからなかなかゆっくり映画も観られず、観てもじっくりレビュー書いてる余裕がなくてこんなに期間が空いてしまったのですが。
久々に好きな映画に出会ったので、ここで書いておこうと思います。
その作品がこちら。「あなたの名前を呼べたなら」
日本版公式サイト「あなたの名前を呼べたなら」
ちなみに原題は「SIR(サー)」です・・・笑
スペイン語圏では「セニョール」です・・・・
日本版と元々のヴィジュアルやタイトルの雰囲気が全然違う。違いすぎる。涙
「切なくて洗練された恋愛映画」として日本では売り出されてるけど、元々はそういう意図で作られた映画じゃないのかもね。
そのあたりも含めて、インド映画「あなたの名前を呼べたなら」の解説やら感想を書いていきたいと思います!
インド映画「あなたの名前を呼べたなら」のあらすじ
まずはざっくりしたあらすじから。
主人公は農村出身の女性、ラトナ。インドの大都市ムンバイで、アメリカ帰りのボンボン息子(死語)、アシュヴィンの家で住み込みのメイド(サーヴァント)として働いている。
アシュヴィンには婚約者がいたが、相手の浮気などが発覚したことやら様々なすれ違いが生じて、結婚式当日に破談に。
意気消沈し、まるで人生が終わったかの様に鬱々としているアシュヴィンを見かねて、ラトナは自分自身の身の上話をする。
ラトナは19歳の時に村で年上の男性と結婚させられたが、すぐに夫は亡くなってしまい若くして未亡人に。
保守的なインドの農村では未亡人は不吉な存在として扱われるため、再婚も許されず身の置き場がない。夫が死んだら妻は後を追って焼身自殺をはかる儀式(サティー)が行われていた時代もあったほど。
そんな自分でも、ムンバイに来てメイドとして働き自立している。結婚が破談になったくらいで人生終わりじゃないっすよ、的な話をして励ますのだ。
この時をきっかけに、アシュヴィンはラトナをただのメイドとしてではなく、1人の人間として興味を持ち関わり始める。
そんなラトナには、密かな夢があった。ファッションデザイナーになりたいという夢だ。
自分の身分では到底なれるわけがない、と思いつつも、少しでもその夢に近づきたいと願う気持ちから、空き時間に外で縫製の勉強をし始めるラトナ。
自分の少ない給料で妹の学資を出しつつ、縫製の勉強も始めて前向きに生きるラトナ。そんな凛とした彼女をだんだん女性として気になってくるアシュヴィン。
ちょっと2人がいい感じの仲になってきたころに、「Sir(ご主人様)ではなく名前で呼んでくれ」と、アシュヴィンはラトナに告げるのだが、ラトナはそれができない。
ラトナもアシュヴィンに好意は持っているものの、身分の違いを分かっているために自分から拒絶し一線を引く。
やがてアシュヴィンの周りの家族や友人も、2人の関係に気づき始め・・・・
さあ最後はどうなる!?
「あなたの名前を呼べたなら」の見所
それでは、極めて個人的な解釈によるあなたの名前を呼べたならの見所紹介をしていきますよー。
主人公ラトナの姿に衝撃を受ける。
まず最初に衝撃を受けたのは、何といっても主人公の女性、メイドのラトナですよ。演じているのはティロタマ・ショームさん。
「あれ・・・?この人、観たことある気がするんだけど・・・。いや、でもそれにしては歳取ってないしな・・・」
と、一瞬混乱しましたが。
そう、主人公ラトナを演じているのは、およそ20年前にヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞した作品、「モンスーンウェディング」でメイド役「アリス」を演じた方なんですよ!!!
モンスーン・ウェディングは繰り返し観ちゃうほどに好きな作品なんですけどね。
あれから20年経ってるのに、全然印象が変わらん・・・・。ティロタマ・ショームさん。
ちなみに、モンスーン・ウェディングの時がこちら↓
この役があったからこそ、今回のラトナ役にも抜擢されたのかもしれませんね。
実物は普通にモダンで裕福なインド家庭出身の方だと思うんですけど、映画の中ではリアルに伝統的な村の女性に見えるからすごい。
女性の自立と尊厳の獲得を描く
伝統とモダンの対比。これはもう前述のモンスーン・ウェディングから全然変わることのないインド映画の王道テーマ。
「またこのテーマですかいっ」ってツッコミ入れたくなっちゃう時もあるのよね・・・。
伝統的なインド女性がシティボーイと恋に落ちて変わっていくとかさ。
Dhobi Ghat(ムンバイ・ダイアリーズ)とか、フォトグラフ ~あなたが私を見つけた日~ なんて映画も、「身分違いの恋」を描いた良作です。
でもね、今までの映画と違って、「あなたの名前を呼べたなら」は裕福な男性が階級の低い女性に恋をするというのが非常に斬新な気がします。
階級の低い男性が裕福な女性に身分違いの恋をする、というのは割とよく見る構図なのですが。(ロミオとジュリエット的な)
しかも、映画の中のラトナはリアルすぎるほどに「村から出てきたあまり裕福ではないメイドさん」的な雰囲気ですから。
そんなラトナに心惹かれていく金持ち男性、アシュヴィンの姿はけっこう新鮮。いやだいぶ衝撃。
なぜこうも、身分違いの恋もようは人をときめかせるのか。
アシュヴィン役のvivek Gomber(ヴィヴェーク・ゴーンバル)氏も、インド俳優らしからぬ爽やかさで、いいんですよ。これが。(ジャイプル出身だけどシンガポール人でアメリカ留学してたそうな)
最後に(ネタバレあり)
一介のメイドに過ぎなかったラトナが、自分の意思で縫製の勉強を始めて、そして真の意味での自立の道を開き始める。やっと自分自身の人生というものを手に入れる。
そこで初めて、アシュヴィンの名前を呼ぶことができるようになる。
恋愛映画と見せかけて、実は女性の自立と解放を描いたストーリー。それがこの「あなたの名前を呼べたなら」です。
あれこれ説明しすぎないちょっとアートな雰囲気のミニシアター系映画が好きな人にはおすすめです。